キャリア設計
8章|まだやり直せる

人生は驚くほど速く進み、気づいたころには「詰んでいる」
いつ・どの段階までなら修正が効き、そこからどう進路の仮説につなげていくのか。
その意識を持ち続けている限り、人はまだやり直せる。
「詰み」とは「修正不能」になった状態のこと
まず、言葉の整理をしておく。
ここで言う「詰み」とは、
単に進路を間違えた状態のことではない。
詰みとは、
- 修正できる可能性があるにもかかわらず考えることをやめる
- 「これが最善に違いない」と根拠なく自分を納得
など、結果として、事実上、修正不能になってしまった状態を指す。
進路を誤ったり、合わない環境を選んだりすること自体は、人生では珍しくない。
それだけで即座に人生が終わるわけではない。
本当の問題はその後だ。
「間違えたかもしれない」と気づいたときに、
- なぜ違和感を覚えたのかを考え直すのか
- 別の選択肢を探すのか
- それとも『もう決めたから』『ここが最善なはずだ』と考えることを放棄するのか
この分岐点で、状況は決定的に変わる。
つまり、詰みとは
失敗そのものではなく、思考停止と自己正当化によって修正不能になった状態だ。
逆に言えば、
理由を言葉にし、仮説を立て直そうとしている限り、完全に詰むことはほとんどない。
学年別|やり直せるラインの現実
1〜2年生|失敗という概念はほぼ存在しない
この時期に「詰んだ」と感じる必要は、ほぼない。
基礎科目が中心で、専門分野もまだ限定的だ。成績が多少上下したり、興味が変わったりするのは当たり前のことだ。
むしろ、この段階で大切なのは、
- 興味を広げること
- 自分が苦手だと感じる分野を把握すること
- 得意そうな分野の芽を見つけること
だ。
この時期に無理に将来を固定しようとすると、判断材料が足りないまま決めてしまう危険がある。
「まだ何者でもない」という状態は、不安ではあるが、同時に最も自由な状態でもある。
この自由さを使って試行錯誤できるかどうかが、後の選択肢の数を左右する。
3年生|方向修正がまだ十分可能
専門科目が増え、自分の適性や苦手分野がはっきりし始める時期だ。
この段階で多いのが、
「この分野は向いていないかもしれない」
「この先生とは合わない」
と感じるケースだ。
ここで大事なのは、一つの要因ですべてを判断しないことだ。
例えば、
- 内容そのものが合わないのか
- 教え方が自分に合っていないのか
- 単に基礎が追いついていないだけなのか
これらは切り分ける必要がある。
特に、先生との相性は想像以上に影響が大きい。
一人の先生と合わなかったからといって、その分野全体が向いていないと結論づけるのは早い。
この時期は、
- 別の先生に話を聞く
- 研究室に顔を出してみる
- 先輩に相談する
といった行動が、進路の解像度を一気に上げてくれる。
学校にいる以上、「先生」は一人ではない。
自分にとって最前の教師を、自分で探しに行く姿勢が重要だ。
4年生|分岐点だが、ここで世界を広げられる
4年生になると、進路選択が本格化する。
この時期に特に強調したいのは、高専の外に出ることだ。
なぜなら、高専という環境はどうしても視野が内向きになりやすい。
周囲が同じ年齢、同じ学歴、同じ制度の中で動いているため、
「それが普通」「それしかない」という感覚に陥りやすい。
だからこそ、この段階では社会人の話を聞くことを強くおすすめする。
特に有効なのが、
- 企業説明会後の少人数座談会
- インターン説明会での社員質問タイム
- OB・OG訪問
といった、双方向で話せる場への参加だ。
一方的に話を聞くだけの説明会と違い、座談会では
- 若手社員が実際にどんな仕事をしているのか
- どんな不満や葛藤を持っているのか
- どんな人が評価されやすいのか
といった、生の情報が出てくる。
例えば、
「配属希望はどれくらい通りますか?」
「若手のうちに任される仕事はどの程度ですか?」
「この会社で成長している人の共通点は何ですか?」
こうした質問を通して、企業の実像が見えてくる。
また、この時期は自分の考えを他人に説明できるかどうかが極めて重要になる。
「なぜこの研究室なのか」「なぜこの進路なのか」。
それを社会人に説明できない場合、判断の軸がまだ曖昧な可能性が高い。
相談は、正解をもらうためにするものではない。
自分の考えを言葉にし、揺さぶってもらうためにある。
できれば、
- 学校の先生
- 先輩
- 企業の人
と、立場の異なる複数人に相談してほしい。
4年生の春から夏にかけては、インターンの募集や企業の採用ページも本格的に動き出す。
「まだ早い」と感じている間に、動いている人はすでに動いている。
焦る必要はないが、無関心でいられる時期ではもうない。
ここで集めた情報が、そのまま進路仮説の材料になる。
5年生|判断の重みが増すが、問い直す時間は残る
5年生になると、内定承諾という明確な締切が現れる。
この段階で多いのが、
「ここで決めないとダメだ」
「専攻科は逃げだ」
といった極端な捉え方だ。
ここで一度、立ち止まって考えてほしい。
それは本当に逃げなのか。 それとも、人生を長期的に見たときに必要な再設計の時間なのか。
何も考えずに就職し、違和感を抱えたまま働くことと、
二年間を使って研究・実績・将来設計をやり直すこと。
どちらが主体的な判断だろうか。
ただし、専攻科も万能ではない。
考えずに進学すれば、問題は単に先送りされるだけだ。
専攻科を選ぶなら、
・何をやり直すのか
・その二年間でどんな仮説を検証するのか
・次にどんな進路につなげるのか
ここまで考えて、初めて意味を持つ。
進学・就職・転職は、それぞれ増えるものと減るものがある
進学すれば全てが解決するわけではないし、
就職すれば後戻りできないわけでもない。
重要なのは、その選択によって、
- 何が増えるのか
- 何が減るのか
を理解しているかどうかだ。
例えば、
進学は時間と専門性が増える一方で、実務経験は遅れる。
就職は経験が積める一方で、学び直しの自由度は下がる。
何も考えずに環境を変えても、受動的な姿勢は変わらない。
環境を変える意味を言語化できないなら、
それは再設計ではなく、ただの先延ばしになる。
本当に取り返しがつかなくなる判断
取り返しがつかなくなるのは、次のような瞬間だ。
- 考えることをやめたとき
- 違和感を無視し続けたとき
- 環境や他人のせいにして動かなくなったとき
これらは、学年や立場に関係なく起こりうる。
だからこそ、
「まだ戻れるうちに考える」ことが重要になる。
例えば、
「この会社でいいのか分からない」と感じている4年生がいたとする。
その場合、
- なぜ違和感があるのかを紙に書き出す
- その内容を先生や社会人に見せる
- 『5年後どうなっていたいか』を軸に質問してみる
これだけでも、判断材料は一気に増える。
考えを外に出すことで、初めて仮説として扱えるようになる。
現実を知る
本章のコンセプトは、みなさんを安心させようというものではない。
「まだ戻れる」という事実と同時に、
「永遠に戻れるわけではない」という現実を、きちんと受け止めてもらうことだ。
人生は長い。
人によっては、これから先40年、50年と働き続ける。
その長い時間を過ごす場所や役割を、
「何となく」「流れで」決めてしまっていいのか。
完璧な答えを出す必要はない。
だが、
- 自分なりに考えたか
- 他人に説明できる仮説を持っているか
その差は、数年後、確実に効いてくる。
だからこそ、立ち止まって考えよう。
それができるうちは、まだ詰んでいない。





