キャリア設計

5章|就職か進学か

更新日 2026-01-21著者 YoshihikoSato
5章|就職か進学か
  1. 就職か進学かは「優劣」ではなく「戦略」である
  2. 高専生が就職を選ぶときに陥りやすい誤解
  3. 高専生が進学を選ぶときに陥りやすい誤解
  4. 就職が向いている人の条件
  5. 進学が向いている人の条件
  6. 専攻科という選択肢の現実的な位置づけ
  7. 就職・進学を決める前に必ず言語化すべきこと
  8. 上策・中策・下策で考える就職と進学
  9. 実体験から見る「考えずに決めた進路」の末路

就職か進学かという最終分岐をどう考え、どう設計するかを扱う。

重要なのは、「どちらが正解か」を決めることではない。

自分の人生のゴールに向かうために、どちらが戦略として妥当かを考えることだ。

就職か進学かは「優劣」ではなく「戦略」である

高専生の進路選択で、最も多い誤解がある。それは「就職か進学か、どちらが正解か」を探そうとしてしまうことだ。

例えば、クラスや研究室で「就職?進学?」という話題になると、「高専なんだから就職でしょ」「成績いいなら進学するか」といった言葉が自然に飛び交うことがある。本人に悪気はなくても、この空気の中に長くいると、知らないうちに“正解っぽい選択”が刷り込まれていく。

しかし結論から言えば、その問い自体がズレている。就職と進学に優劣はない。あるのは、自分の人生のゴールに対して、その選択が戦略として合っているかどうかだけだ。

例えば「30代前半で専門性を武器にした技術者になりたい」というゴールを持つ人と、「とにかく早く現場に出て経験値を稼ぎたい」という人では、同じ高専生でも取るべき進路設計は大きく異なる。

前者であれば、研究テーマを通じて専門性を深掘りできる研究室を選び、進学や専攻科で成果を積み上げ、その分野で評価される企業や職種を狙うという設計が考えられる。一方で後者であれば、早期に現場に出られる企業に就職し、実務経験を通じてスキルを磨く方が合理的な場合もある。

ただし、ここで挙げた例はあくまで一例に過ぎない。重要なのは、この文章に引っ張られることではなく、自分自身の目標を自らの言葉で描けているかどうかだ。進路設計は他人の成功例をなぞるものではない。にもかかわらず、進路そのものを目的にしてしまうと、こうした前提がすっぽり抜け落ちる。

この章では、就職か進学かを“感覚”や“雰囲気”で決めるのではなく、人生設計の文脈で整理し直していく。

高専生が就職を選ぶときに陥りやすい誤解

就職を選ぶ理由としてよく挙がるのが、「早く社会に出た方が成長できる」「収入が安定する」「大企業だから安心そう」といったものだ。

例えば、求人票を見て「名前を聞いたことがある」「親に言ったら安心されそう」といった理由で企業を選んでしまうケースは少なくない。この時点では、その会社で自分が何をするのか、どんな力が身につくのかはほとんど考えられていない。

特に大企業の場合、注意が必要だ。配属先や業種は必ずしも自分の希望通りになるとは限らず、昇進や評価も成果だけで決まるわけではない。部署間の力関係や上司との相性など、いわゆる社内政治が少なからず存在する。

また、人間関係も自分で選ぶことはできない。合わない上司や同僚と長期間仕事をする可能性も現実としてある。こうした要素を理解しないまま「大企業だから安心」「成長できそう」という感覚だけで決めてしまうと、入社後にギャップを強く感じることになる。

さらに、インターンで見られる仕事は、その企業のほんの一部に過ぎない。短期間の体験だけで判断せず、同業他社と比較しながら、その企業がどんな価値を生み、どんな人材を必要としているのかを分析する視点が欠かせない。

「就職=すぐ成長できる」「就職=正解」という思い込みだけで決めるのは危険だ。就職はあくまで手段であり、目的ではない。

高専生が進学を選ぶときに陥りやすい誤解

進学に関してよくあるのが、「進学は逃げではなく、むしろ賢い人の選択だ」という解釈だ。その結果として、「成績が良いから進学するか」という判断が生まれる。一見すると合理的で賢い判断のように見えるが、実はここにも大きな落とし穴がある。

例えば、成績が良いからという理由だけで進学を目指してしまうケースだ。周囲から「この成績なら進学でしょ」「旧帝大を目指せるんじゃない?」と言われ、その流れで深く考えずに進学を選ぶ。進学そのものが“かっこいい選択”であり、新しい環境に行けば何かが変わるはずだと理想を抱きすぎてしまう場合もある。

逆に、成績が思うように振るわないからという理由だけで、「とりあえずどこかに就職しよう」と考えてしまうケースもある。これは、人生の中でも特に重い判断を、その場しのぎの理由に委ねてしまっている状態だ。

どちらにも共通しているのは、人生全体の設計が置き去りになっている点だ。成績が良いか悪いかは、進路を考える材料の一つに過ぎない。それ自体が進学や就職の理由になるわけではない。

また、進学に関してよくある誤解として、「大学に行った方が給料が上がる」「賢い大学に行けば良い企業に就職できる」という考えがある。これはある意味では正しいが、大卒市場で戦う場合、旧帝大クラスの大学でないと高専生としての市場価値と真正面から張り合うのは簡単ではない。

さらに、高専からの大学編入は3年次からになるため、単位互換が完全ではない例もある。完全だったとしても研究やインターン、授業とやることは山積みになる。2年間その大学に在籍してきた学生との差はどうしても存在し、それを埋めるには相当な努力が必要だ。

新しい環境に行けば自動的に自分が変わるわけではない。受動的な姿勢のまま進学しても、状況が変わるだけで中身は変わらない。研究で明確にやりたいことがある場合は話が別だが、ただの引き延ばしであれば、時間は簡単には取り戻せない。

進学後の2年間は、想像以上のスピードで過ぎていく。だからこそ、進学を選ぶなら、最初から計画性を持って臨む必要がある。何も考えずに進学した場合、高専時代より良い企業に行ける可能性は高くない。それだけ高専ブランドは強いという現実も、直視しておくべきだ。

就職が向いている人の条件

就職が戦略として合っている人には、いくつか共通点がある。

例えば、

・やりたい職種や業界がかなり具体的に決まっている

・「この会社で、この技術を扱いたい」と説明できる

・現場で試したい仮説やテーマをすでに持っている

こうした人にとっては、就職は非常に合理的な選択だ。例えば、制御系の仕事がしたい、設備保全の現場で腕を磨きたい、特定の製品に関わりたい、といったイメージがある場合、進学よりも就職の方が早く経験値を積める。

重要なのは「どこでもいいから就職」ではなく、「この環境で、この力を積み上げたい」という意図があり、それが人生のゴールと合致しているかだ。

進学が向いている人の条件

進学が戦略として合っている人にも、明確な特徴がある。

例えば、

・今の専門性では企業に評価されにくいと感じている

・研究テーマを通じて、自分なりの強みを作りたい ・大学編入や専攻科で視野を広げたい

こうした場合、進学は逃げではなく、むしろリスクを下げる選択になる。例えば、研究成果を学会発表まで持っていける見込みがある、専門分野をもう一段深掘りできる環境がある、といった条件がそろっているなら、進学は大きな意味を持つ。

ただし、「なんとなく時間を稼ぐための進学」はほとんどの場合、後悔につながる。

専攻科という選択肢の現実的な位置づけ

専攻科は、高専生にとって非常に特殊な立ち位置にある。使い方次第で、人生における強力なカードにもなれば、時間を浪費するだけの場所にもなる。

重要なのは、専攻科を「逃げ道」として使うのではなく、「取り返しがつく再設計の場」として使えるかどうかだ。

専攻科で何を研究し、どんな成果を残し、それをどう就職活動につなげるのか。ここまで描けて初めて、専攻科進学は意味を持つ。

就職・進学を決める前に必ず言語化すべきこと

就職か進学かを考える前に、必ず言語化しておくべきことがある。

それは、

・自分の人生のゴール

・20代で何を積み上げたいのか

・そのために何を優先し、何を捨てるのか

ここが曖昧なままだと、どんな選択肢も正しく評価できない。

上策・中策・下策で考える就職と進学

第4章で触れたように、ここでも上策・中策・下策で考えることが重要だ。

第一希望が叶わなかった場合に、どこまでなら納得できるのか。就職がダメだった場合に進学はどう位置づけるのか。逆に、進学が合わなかった場合に就職へどう切り替えるのか。

最初から失敗を想定しておくことで、判断の怖さは大きく下がる。

実体験から見る「考えずに決めた進路」の末路

筆者自身、設計を曖昧にしたまま進路を決め、後になって強い違和感を抱いた経験がある。就職したものの思うように成長できず、別の道に進むことになった。

振り返ると、問題は能力ではなかった。あまり考えずに決めてしまっていたことそのものが原因だった。

就職か進学かを「雰囲気」や「感覚」で決めないようにしてほしい。

自分の人生のゴールに対して、どちらが戦略として妥当か。その視点で考え、選び取れる状態になること。それが、この章のゴールである。

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