キャリア設計
3章|4年生:決断を迫られる時期

高専生のほとんどが感じる進路決定時の不安と焦りの正体、そして判断を誤らせる構造を分析していく。
進路は「考えるもの」から「決めるもの」へ
4年生になると、高専生活の空気は明確に変わる。
研究室配属、インターン、就職か進学か。これまで「そのうち考えればいい」「まだ先の話だ」と思っていたことが、期限付きの選択肢として一気に目の前に現れる。
進路希望調査、研究室の面談、インターンの締切。
カレンダーに日付が入り始めた瞬間、それまで頭の片隅に追いやっていた問題が、否応なく現実になる。
また、多くの高専でアルバイトが解禁される。
収入を自分で得られるようになり、行動範囲も一気に広がる。
同時に、地元の友人たちは大学に進学し、
飲み会や旅行、自由な時間の話が増えてくる。
「学生らしい楽しさ」を強く感じやすい時期でもある。
加えて、周囲からは
「もう大人なんだから」「そろそろ将来を決めないといけない」
といった言葉も聞こえ始める。
責任と自由、将来への不安と今の楽しさ。
この両方が一気に押し寄せてくるのが、4年生という時期だ。
だからこそ、この時期の判断は難しい。
考える余裕は減り、誘惑は増え、決断の期限だけが明確になる。
この環境変化そのものが、進路選択を重くしている。
ここで多くの人が感じるのが、「考えているだけではもう遅い」という感覚だ。
4年生では、何かを考えているだけでは何も進まない。
何かを選ばなければ、次のステップに進めない段階に入る。
この「考える」から「決める」への切り替えは、多くの高専生が想像している以上に負荷が大きい。
なぜなら、4年生での選択は「失敗したら取り返しがつかない気がするもの」として感じられやすいからだ。
研究室を間違えたらどうしよう。
インターン先が合わなかったらどうしよう。
就職か進学かを誤ったら、人生が大きくズレるのではないか。
こうした考えが、決断の重さを何倍にもしていく。
多くの高専生は、この時点で初めて強い不安を感じる
4年生になってから、急に将来が不安になる人は少なくない。
だが、それは意志が弱いからでも、考える力が足りないからでもない。
単純に、これまで先送りしてきた判断が、先送りできなくなっただけだ。
2〜3年生の間、多くの高専生は課題、実験、レポートに追われながら生活している。
「今は忙しいから」「まずは単位を落とさないことが先」と考え、将来について深く考えることを後回しにしてきた人も多いだろう。
その状態が長く続いた結果、4年生になった瞬間に、不安が一気に噴き出す。
これは異常なことではない。
むしろ、考える時間を取ってこなかった分、当然の反動だ。
ここで重要なのは、「不安を感じること自体」は悪ではないという点だ。
不安は、考え始めるきっかけでもある。
問題なのは、不安を消すことだけを目的に、拙速な決断をしてしまうことだ。
「早く楽になりたい」という感情が判断を歪める
不安が強くなると、人は冷静な判断よりも「早く楽になりたい」という感情を優先しやすくなる。
たとえば、就職活動で最初に内定が一つ出たとき。
「とりあえずここでいいかもしれない」と感じてしまう。
研究室の候補が一つに絞れたとき。
「ここが一番楽そうだから、ここに決めてしまおう」と思ってしまう。
ここで起きやすいのが、就職や進学そのものが目標になってしまう状態だ。
本来であれば、
・この会社でどんな力が身につくのか
・この研究室での経験は、次にどうつながるのか
を考える必要がある。
それにもかかわらず、「決まった」「内定が出た」という事実だけで不安を抑えようとしてしまう。
この判断は、短期的には確かに楽だ。
だが後になって、「なぜここを選んだのか」を説明できなくなり、違和感として残り続ける。
就活・進学がつらくなるのは、能力不足ではない
就職活動や進学準備がつらくなると、
「自分は何もできていないのではないか」
「他の人より遅れているのではないか」
と考えてしまいがちだ。
しかし、多くの場合、原因は能力不足ではない。
判断基準がないこと、そして判断材料が不足していることが、苦しさの正体だ。
たとえば、「安定した仕事に就きたい」という言葉だけでは、選択肢を絞れない。
何をもって安定とするのか。
収入なのか、勤務地なのか、仕事内容なのか。
それを言葉にしていない限り、どの企業も同じように見えてしまう。
基準が曖昧なまま選択を迫られるから、どの選択肢も重く、怖く感じてしまうのだ。
研究室選択・インターン選択が現実として迫ってくる
4年生では、研究室選択やインターン先選定が現実として襲いかかる。
このとき起きやすいのが、
「楽だから」
「勧められたから」
そして
「何となく収入が安定していそう」
「休みが安定していそう」
「大企業だから安心そう」
といった理由での決定だ。
研究室であれば、
「先生が優しそう」
「忙しくなさそう」
といった理由だけで選んでしまい、研究テーマや身につく力を深く考えないまま進んでしまう。
インターンであれば、
「有名だから」
「とりあえず経験になるから」
と参加し、その企業や業界が自分の将来とどうつながるかを考えず、
「行った」という事実だけを取りに行ってしまう。
他人に合わせていた自分に、ここで初めて気づく
この時期になって初めて、自分の選択が他人基準だったことに気づく人も多い。
先生の勧め、周囲の進路、企業の評価。
気づけば、自分で決めているつもりでも、判断の軸はすべて外にあったということに気づく。
「みんなが受けているから」
「先生が勧めたから」
これらの理由は一見もっともらしい。
しかし、それが自分の人生にとって正しいかどうかは別問題だ。
やり直せるラインはあるが、使い方を誤ると意味がない
4年生の段階でも、進路を見直す選択肢は確かに存在する。
ただし、それを「逃げ道」として使ってしまうと、同じ失敗を繰り返す。
考えずに決め、違和感から逃げ、また考えずに決める。
そのループからは抜け出せない。
やり直しが意味を持つのは、
「なぜうまくいかなかったのか」
「どこで判断を誤ったのか」
を言葉にできたときだけだ。
4年生で本当に必要なのは、完璧な答えではなく判断基準
ここで必要なのは、「正解の進路」を見つけることではない。
自分の人生のゴールに向かうために、何が必要で、そのために何を優先するのか。
たとえば、
「技術を武器にしたい」のか、
「安定した生活を優先したい」のか。
それぞれで選ぶ研究室も、インターン先も、就職先も変わってくる。
加えて重要なのが、最初に考えた計画がうまくいかなかった場合の中策・下策まで含めて考えておくことだ。
第一志望がダメだったとき、次に何を試すのかを考えておくだけで、決断の場面で過度に怖がらずに済む。
決断とは「選ぶこと」であり「捨てること」でもある
決断は、何かを選ぶ行為であると同時に、他の可能性を捨てる行為でもある。
この「捨てる」という感覚があるからこそ、多くの人は決断を怖がる。
研究室Aを選べば、研究室B・Cの可能性は消える。
企業Xを選べば、企業Y・Zで働く未来は選ばない。
だが、ここで一つ押さえておきたい事実がある。
すべてを残したまま前に進むことは、構造上不可能だということだ。
選ばないという選択は、可能性を温存しているように見えて、実際には何も積み上がらない。
研究テーマも、専門性も、経験も、すべてが中途半端なまま時間だけが過ぎていく。
例えば、研究室選択で「まだ決めきれないから」と曖昧な態度を取り続けた結果、
最終的に空いている研究室に割り当てられるケースは珍しくない。
これは一見すると「選ばされた」ように見えるが、
実際には決めないという選択を続けた結果だ。
決断とは、未来を完全に固定する行為ではない。
あくまで「この時点では、この道を進む」という仮置きだ。
重要なのは、
・なぜそれを選んだのか
・何を得ようとしているのか
を自分の言葉で説明できるかどうかだ。
4年生で起きやすい「判断停止」の具体例
4年生でよく見られるのが、「考えているつもりで、実は何も判断していない」状態だ。
例えば、就職活動で次のような思考に陥るケースがある。
「まだ企業研究が足りない気がする」
「もう少し情報を集めてから決めたい」
一見すると慎重に見えるが、期限が迫っている中でこの状態が続くと、
最終的には「一番早く内定が出た企業」に流れやすくなる。
これは、比較軸を作らないまま時間切れを迎えた結果だ。
また、研究室選択でも似たことが起きる。
「どのテーマも一長一短に見える」
「先生ごとに良さがあって決めきれない」
この状態で決めきれないまま時間が過ぎると、
「忙しくなさそう」「雰囲気が良さそう」という理由が、最後の決め手になりやすい。
ここで重要なのは、
楽そう・優しそうという基準自体が悪いわけではないという点だ。
問題は、それが
・自分のゴールとどう関係しているのか
・何を優先した結果なのか
を説明できないまま選ばれてしまうことだ。
判断基準がないと、情報が増えるほど迷う
4年生になると、情報量は一気に増える。
企業説明会、インターン報告、先輩の体験談、先生の助言。
一見すると選択肢が増えているように感じるが、判断基準がない状態では逆効果になる。
例えば、
・A社は給料が高い
・B社は残業が少ない
・C社は技術的に面白そう
これらを同じ土俵で並べてしまうと、比較ができない。
なぜなら、
「自分は何を最優先する人間なのか」
という前提が抜けているからだ。
判断基準がない状態では、情報は材料にならず、ただのノイズになる。
結果として、
「調べれば調べるほど分からなくなる」という状態に陥る。
4年生でやるべきことは「正解探し」ではない
ここまで読んで、
「じゃあ正解は何なんだ」と感じた人もいるかもしれない。
だが、4年生でやるべきことは正解探しではない。
やるべきなのは、
自分なりの判断基準を言葉にすることだ。
例えば、
・20代のうちにどんな力を身につけたいのか
・どんな働き方なら、長く続けられそうか
・今の自分が一番耐えられない状態は何か
これらを考えるだけでも、選択肢の見え方は変わる。
重要なのは、
「他人と比べてどうか」ではなく、
「自分の人生のゴールに近づくかどうか」で判断する視点だ。
焦らなくていい。ただし、思考は止めるな
「4年生になったのだから、とにかく焦らなければいけない」という話ではない。
焦るのは自然だ。
期限があり、選択肢があり、失敗が怖いのだから。
だが、焦りに任せて考えずに決めることだけは避けてほしい。
4年生で必要なのは、
完璧な答えでも、華やかな経歴でもない。
自分は何を基準に選んだのかを説明できること。
それができる限り、
たとえ選択が後から修正されることになっても、
その経験は無駄にならない。




