キャリア設計
7章|高専生がキャリアで詰む典型パターン

キャリアが詰む瞬間は、派手な失敗ではなく、考えなかった時間の積み重ねとして訪れる。
気づかないうちに選択肢を失っていく典型パターンに入った時、
どこで立ち止まれるのか。常に考え続けることが問われる。
詰みは突然起きない
多くの高専生は、「詰む」という状態を、
- 留年した
- 内定が一社もない
- ブラック企業に捕まった
といった、目に見えて分かりやすい失敗だと思いがちだ。
しかし現実は、もっと静かで、もっと気づきにくい。
授業に出て、実験をこなし、課題を出し、部活や趣味もそれなりに楽しむ。周りと同じように日々を過ごしながら、「まあ何とかなるだろう」「そのうち考えればいい」と思っているうちに、選択肢は少しずつ消えていく。
怖いのは、本人に自覚がほとんどないまま進行する点だ。誰かに怒られるわけでも、急に失敗するわけでもない。ただ、考える機会を先送りにし続けた結果、選べなくなる。
人生は一度きりだ。そしてほとんどの人は、これから40年、50年と働き続けることになる。その最初の一歩を「何となく」で決めてしまっていいのか。
ここで扱う詰みは、能力の問題ではない。自分の人生をどれだけ真剣に扱ったか、その差が静かに表面化した結果だ。
以下では、その典型的なパターンをいくつか挙げ、解析していく。
1:推薦があるから考えない
高専には推薦という、強力な制度がある。
求人が多く、先生に相談すれば候補企業が自然と出てくる。この仕組み自体は、間違いなく高専の強みだ。
だが、この制度があることで、「自分で考える必要がない状態」に入りやすくなる。
「どうせ推薦で決まる」「落ちることはあまりない」「とりあえず受けてみよう」。こうした言葉が頭をよぎった瞬間、判断の主導権は自分から離れていく。
本来、進路を選ぶという行為は、自分の人生をどこに預けるかを決める行為だ。にもかかわらず、推薦を使うことで、その重さを感じる前に話が進んでしまう。
考えないまま推薦を使うと、「選んだ」のではなく「決まった」状態になる。これは、後からじわじわと効いてくる。
2:早期内定=ゴールだと思ってしまう
早期内定をもらった瞬間、多くの人は心から安心する。
「これで将来は大丈夫だ」「もう就活のことを考えなくていい」。周囲からも祝福され、その空気に逆らうのは難しい。
だが、ここで思考を止めると、詰みは一気に進む。
一つ内定があるということは、社会人としての最低限のスタート地点が確保されたという意味に過ぎない。そこから先の40年、50年をどう生きるかは、何も保証していない。
それにもかかわらず、「もう決まった」という事実が、思考を終わらせる理由になってしまう。
内定はゴールではなく、比較を始めるためのスタート地点だ。この感覚を持てないと、選択肢は一気に閉じていく。
3:雰囲気・安心感で企業を決める
「大企業だから安心」「ホワイトそうだから大丈夫」。こうした言葉は、とても魅力的だ。
だが、その安心感は、本当に自分の人生を支えてくれるものだろうか。
例えば、思っていた部署に行けない。仕事の裁量が小さく、決められた範囲の作業だけを淡々とこなす日々になる。成長したいと思っても、スピードが合わない。
これらは珍しい話ではない。
雰囲気や安心感で決めると、「その先」を想像しなくなる。5年後、10年後、自分はどんな技術者、どんな社会人になっているのか。その視点が抜け落ちる。
4:比較せずに決断してしまう
「一通り調べたし、ここでいいと思う」。 そう感じたときほど、本当に比較できているかは怪しい。
多くの高専生がやってしまう比較は、
- A社とB社の待遇を並べる
- 初任給や福利厚生を見る
- ネームバリューで判断する
といった、表面的なものに留まる。
だが本当の比較は、そんなに単純ではない。
例えば企業を、日本や世界の中でどんな立ち位置にいるのかという視点で見ただろうか。 国内シェアは高いが世界では通用しない企業なのか、規模は小さくても世界的に不可欠な技術を持つ企業なのか。その違いで、将来求められる技術や経験は大きく変わる。
また、業界そのものも比較対象になる。 成長が緩やかな成熟産業なのか、これから構造変化が起きる業界なのか。日本市場だけを相手にしているのか、最初からグローバルを見ているのか。
個別企業に目を向けても、
- 同じ業界でも、上流工程を担う企業なのか、下請けに近い立場なのか
- 技術を内製しているのか、外注が中心なのか
- 若手が裁量を持てるまでに何年かかるのか
- その会社で積んだ経験が、他社や他業界でどう評価されるのか
こうした点まで見て、初めて「比較した」と言える。
比較をしないままの決断は、自分にとっての最善を確認しないまま、人生の賭けに出る行為に近い。
高専生は求人が多いため、比較が浅くても内定が出てしまう。だからこそ、「比較したつもり」で決める危険性が高い。
5:違和感に蓋をして進んでしまう
就活の途中や、内定承諾の直前で、「何か引っかかる」「本当にここでいいのか分からない」と感じる瞬間は珍しくない。
この違和感は、気分や弱気の問題ではないことが多い。多くの場合、企業選定時の比較軸が少ないこと、もしくは自己分析が未熟なまま企業を見ていることが原因で起きる。
例えば、
- 給与や知名度、勤務地といった分かりやすい条件だけで企業を見ている
- 業務内容を深く理解しないまま「技術職だから合いそう」と判断している
- 自分がどんな環境で力を発揮しやすいかを言語化できていない
こうした状態で企業を選ぶと、「条件は悪くないはずなのに、なぜか納得できない」という感覚が残る。
これは、その企業が悪いのではなく、判断材料が足りていないまま決断しようとしていることのサインだ。
比較軸が少ないと、企業同士の違いがぼやける。 結果として、本当は自分とマッチ度が低い企業にも「まあここでいいか」と応募してしまう。
自己分析が不十分なままだと、さらに問題は深刻になる。
例えば、
- 一人で黙々と考える方が力を発揮できるのに、チームワーク重視の環境を選んでしまう ・技術を深く掘ることに価値を感じるのに、調整や管理業務が多い職場に入ってしまう
- 変化の速い環境を求めているのに、意思決定が遅い組織に身を置いてしまう
こうしたズレは、入社後になってから一気に表面化する。
「思っていた仕事と違う」「なんとなく居心地が悪い」と感じたとき、原因を企業のせいにしてしまいがちだが、実際には自分自身の軸を持たずに選んだ結果であることも多い。
違和感は、無視すべきものではない。 それは「もっと比較軸を増やせ」「自分をちゃんと理解しろ」というサインでもある。
この段階で立ち止まり、
- 何を基準に企業を見ているのか
- その基準は本当に自分の人生のゴールとつながっているのか
を整理できれば、詰みは回避できる。
逆に、「考えすぎだ」「せっかく決まったから」と違和感に蓋をしてしまうと、その判断の仕方が癖になる。
人生の重要な局面で、同じように自分の感覚を無視し続けるようになってしまう。
人生設計をしないまま走り切ってしまう
就職活動を、目先の内定獲得だけで終わらせてしまう。
「なぜこの会社なのか」「この会社で何を積み上げるのか」。これを言葉にできないまま社会に出ると、キャリアは流される形で進んでいく。
忙しさに追われ、考える時間はどんどん削られる。気づけば数年が過ぎ、「今さら方向転換できない」という感覚だけが残る。
人生は長い。これから50年近く働くことになる。その長さに対して、進路決定に使う時間があまりにも短すぎないか。
一度走り出してしまえば、立ち止まるには勇気がいる。だからこそ、走り出す前に考える時間を取ること自体が、将来の自分を守る行為でもある。
考えろ
詰みのパターンは、事前に分解できる。そして多くの場合、途中で立ち止まれば修正も可能だ。
大事なのは、「自分の人生なんだ」という当たり前の事実を、真正面から受け止めることだ。
これから先、40年、50年と働く可能性がある。その最初の選択を、周囲の空気や流れに任せてしまっていいのか。
完璧な答えを出す必要はない。ただ、真剣に考えたかどうか。その差は、あとから必ず効いてくる。
自分はいま、どのパターンに近いのか。どこで立ち止まれるのか。
それを自覚できた時点で、まだ詰みではない。
考え直す覚悟を持てるかどうかだ。まだ遅くない。考えろ。





